会長挨拶

東日本大震災とそれにともなう大津波、さらに原発事故による放射能汚染の危機と、ショックが癒えぬ日々が続いております。テレビや新聞などによる連日の報道で被災の深刻さを知るにつけ、言葉もありません。皆さんや皆さんの関係者のなかにも被害に遭われた方がいらっしゃるのではないかと思います。心からお見舞い申し上げます。

それにしても、自分が生きているあいだにこれほどの大災害に立ち会うことになるとは、思ってもいませんでした。私もふくめて戦後世代は、第二次大戦を体験していませんが、東日本大震災が戦後最大の事件であることは、だれしも異論がないと思います。と同時に、歴史学徒としての私は、この事件がどう記述されてゆくのかが気になります。100年後といわずとも、50年後の歴史家は、わたしたちが現にこの事件について経験し、感じ、記録していることを、どう分析し、どう叙述するのでしょうか。

そんなことを考えたのは、情報を伝達する史料が質的にも量的にも変容したということを、東日本大震災によってまざまざと実感させられたからです。これまで歴史家は、ほぼ文字史料に依拠して「事実」を再構成してきました。しかし、今回の事件では、映像や音声による情報が大きな比重をしめており、しかも、テレビやパソコンのインターネットなどのメディアによって媒介されています。これらのメディアによる情報は、文字史料に依拠して歴史家が占有してきた歴史学のあり方を変えることになるのでしょうか。

歴史学会の会員や会誌購読のみなさま、開店休業状態であったホームページが、ブログのかたちであれ、このたび運営可能になりました。その最初のメッセージがこのようなものになるとは思いませんでしたが、これからは本会の状況を中心にできるだけ情報発信に努めてゆきたいと思っています。

2011年4月 歴史学会会長 松浦義弘