会長挨拶:2012年12月

猛暑の記憶もようやく薄れかけてきたと思ったら、一転して厳しい寒さが続いております。歴史学会の会員の皆さま、お変わりなくお過ごしでしょうか。

すでに「歴史学会ブログ」でお知らせしたように、今年度の大会・総会は、去る12月2日(日)、成蹊大学で開催されました。午後のシンポジウムは「『戦後歴史学』とわれわれ」をテーマにおこなわれたのですが、久しぶりに参加者も多く、報告も興味ぶかく議論も大いに盛り上がりました。報告とコメントを引き受けてくださった小谷汪之(インド史)、須田努(日本史)、池田嘉郎(ロシア史)、奥村哲(中国史)の各氏、また会場から質問をしてくださった皆さんに、心から御礼申し上げます。

「戦後歴史学」と聞けば一見自明なように思えますが、シンポジウムでは、「戦後歴史学」のとらえ方の多様性が浮かびあがりました。焦点のひとつとなったのは、上原専禄や江口朴朗を「戦後歴史学」の構成要素と考えるかどうかということでした。その点が、「戦後歴史学」が1960年代で崩壊するのか、あるいはそれを超えてその射程は続くのか、の分岐点となっておりました。しかし同時に焦点として浮かびあがったのは、「戦後歴史学」の射程をいかに長くとるにしろ、その射程は「言語論的転回」以後に届いているのか、ということでした。「言語論的転回」は、新たな「科学性」を模索する現在の歴史学にとっても、避けて通れない問題を提起していると再認識させられたシンポジウムでもあったと思います。

なお、個人的な事情で、2期4年つづいた歴史学会の会長職を今年度の大会・総会をもって辞めることになりました。この間、歴史学会の裾野を広げようと努めてまいりましたが、正直言ってうまくいったとはいえません。しかし曲がりなりにも会長職を無事に終了することができたのは、ひとえに本会の運営にボランティア精神をもって当たられた理事の皆さんのおかげでした。心からお礼申し上げます。

2012年12月 歴史学会会長 松浦義弘