カレンダー効果

HP担当理事に何でもよいからと文章を求められたので、一言書き記す次第です。ブログの何たるかを尋ねたくらい、近代兵器に無知な過去の人間ですが、無知なのが却って幸いするかもしれないという話です。

私らの学び始めの頃、手書きをコピーする青焼きは有りましたが、コピー機はなく、会合の資料は大部分ガリ版刷りでした。そのため個人的な資料集めも書き写しによりました。私の場合、更にB6のカードも用い、それは多いのか少ないのか知りませんが数千枚に及びます。適当に何十個のファイルに納めておいて絶えず移動させているわけですが、或いは無駄なことをしているかもしれません。若い方々のパソコン入力とは容量からして雲泥の差が有りそうです。しかし、現在、視力が衰えても、なお活用できるのは書き写しの効用に違いありません。新しい資料に出くわしても、つい近代兵器を使ってコピーしないと気が済まないのは、パソコンに入力するのではなく、書写する習慣の賜物でしょう。更にそのB6カードは場所を取りますが並べるという作業によって一覧に供することもできます。

カレンダー効果とはそのことです。1枚1枚めくるカレンダーは、今あるかどうか知りませんが、それはそれでその日の暦として行事やら過去の事件等が詳しく記されていて役立ちます。しかし予定を立てる場合は年間の或いは月ごとのカレンダーでなければならないのは云うまでもありません。まして歴史は時間との戦いです。時間の離れた資料を並べれば、案外それによって思わず気がつくということもあります。頭の回転が鈍り、記憶力も減退したせいでもありましょうが、最近はそういう作業をしております。此れはあるいは図形や一覧表の効果に過ぎないのかもしれません。

しかし思い返してみますと、日めくりの暦と年間のカレンダーの違いは、われわれの資料集めにおける二つの方法の違いでもあるようです。一つ一つの資料の吟味、それに対する博捜です。二つの矛盾した作業をやるのがわれわれの仕事ともいえます。迂遠といえば迂遠なことです。とても普段意識的にできるわけでは有りませんが、B6カード化は自然とその方向に導いてくれているようにも思われるのです。

以上、昔からの作業が役立つこともあるのではないかという話です。ごく当たり前の事を記させていただきました。

2013年3月 歴史学会会長 渡辺紘良