会長挨拶:2012年7月

厳しい暑さがつづいておりますが、歴史学会の会員の皆さま、お変わりなくお過ごしでしょうか。今夏の電力の需給関係は昨年ほど逼迫していないようですが、エネルギー政策をどうするかは喫緊の課題です。その点で、「国会事故調査委員会」がその報告書で、福島原発事故を「日本製」の「人災」としたのには、一抹の不安を覚えました。これでは、日本だからこそ原発事故はおこったのであり、ハードとしての原発そのものには問題がないといっているに等しいからです。この危惧が思い過ごしであってくれれば、と思う今日この頃です。

さて、本年2月の「会長挨拶」で、「今年度のシンポジウムでは、史学史がらみのテーマでやるのも面白いのではないか」と書きましたが、「『戦後歴史学』とわれわれ」というテーマでシンポジウムを開催することが本決まりになりました。

4月以来おこなってきた月例研究会の過程で鮮明になったのは、「戦後歴史学」といっても一枚岩ではないということです。フランス近代史に慣れ親しんできた私には、「戦後歴史学」には固有の方法と対象があり、したがって「戦後歴史学」の時代も自明だったのですが、その自明性はみごとに崩されました。そもそも、中国史の研究者などの話を聞くかぎり、中国史について戦後の歴史学は語り得ても「戦後歴史学」を語り得るのかという疑念さえ生じます。インドやイスラーム圏の歴史などについても、気になるところです。

それからもうひとつ鮮明になったのは、「史学史」は、個別テーマの研究史とは別物であって、個々の研究者にとってはプラスαの新たな作業が必要となるテーマだということです。そのためもあって、まだシンポジウムの報告者・コメンテーターを確定するにいたっておりません。現在、企画担当理事を中心に努力しておりますので、12月2日(日)に成蹊大学でおこなわれる大会・シンポジウムにはふるって参加していただければと願っております。

2012年7月 歴史学会会長 松浦義弘