会長挨拶

秋の深まりとともに、朝晩はめっきり冷え込むようになりました。歴史学会の会員の皆さま、お変わりなくお過ごしのことと思います。

さて、今年度のシンポジウムも「都市」に焦点を当て、「都市における「再開発」の諸相」をテーマにおこなうことは、すでに以前の「挨拶」でお知らせしましたが、いよいよシンポジウムの報告の詳細をお知らせすることができるようになりました。

日本に関しては、当初は、関東大震災後の東京の「再開発」などが念頭にあったのですが、関東大震災がらみで報告者を探すことができず、結果的に、明治期と戦後期を専門とするお二人の研究者に報告をお願いすることになりました。その一人は、幕末から明治にかけての東京の変化を空間、社会、文化の諸相から考察してきた松山恵さん、もう一人は、戦後の東京の再開発、とくに盛り場における雑居ビルの形成と変容を中心に研究してきた初田香成さんです。

従来の日本の都市計画史はほとんど制度史からのアプローチでしたが、お二人とも事業の実態を人間集団の多彩な運動からとらえており、東京を良く知っている人にとっても,東京の新たな側面に目をひらかれるところがあると思います。ぜひとも江戸の専門家からのリアクションによって、江戸と明治の東京の、さらには戦後の東京との対話が成立すれば、と期待しています。

東洋に関しては、植民地時代の租界都市・上海を研究してきた菊池敏夫さんに報告をお願いしました。これまでのシンポジウムでは、日本史と東洋史の報告にくわえて、西洋史の報告を立ててきましたが、今回は西洋史固有の報告は立てず、その代わりに、オスマンのパリ都市改造だけでなく、日本の都市再開発にも造詣が深い羽貝正美さんに、「再開発」を論じるさいに踏まえるべき論点を中心に広い視点からコメントしていただくことになっています。

歴史学会の会員の皆さまには、ぜひとも大会に参加していただき、議論をもりあげていただければ、と願ってやみません。

2011年10月 歴史学会会長 松浦 義弘