歴史学会第36回大会:シンポジウム趣意書

テーマ:「都市の『再開発』の諸相」

近代以降の加速化した経済発展,人口増加,および産業構造の高度化にともなう都市人口の著しい増加は,都市における過密化,衛生状態の悪化,交通停滞による商業的機能の低下,景観の悪化など,様々な問題を引き起こすことになった。そうした問題を前にして,多くの都市においては,①都市の拡大(郊外化),②都市の分散化(衛星都市・田園都市計画),③都市中心部の再開発などが,19世紀および20世紀を通じて進展することになる。

今回のシンポジウムにおいては,とくに③の都市中心部における再開発に焦点を当てる。すでにあるものを意図的に破壊し,作り変えるという点で,都市中心部の再開発は極めて困難でまた複雑な事業であり,そこでは自ずと,様々な理念,利害,思惑が交錯することになる。近現代の日本・東洋・西洋における都市中心部の再開発は,どのような主体・担い手のいかなる理念によって,またいかなる利害や思惑の影響を受けて進められたのであろうか。その際,再開発される側の人々はどこまで計画・事業に参画しえたのであろうか。またそこにおける公共性と私的所有の関係は,いかに調整されたのであろうか。そして再開発の結果生まれた新しい都市は,後の都市社会にどのような影響をもたらしたのであろうか。

以上の問いに対し,本シンポジウムでは,近現代の東京の再開発および植民地時代の上海の再開発を専門とする研究者に報告をいただくとともに,近代パリの再開発と都市行政・政策学に造詣の深い専門家からコメントをいただく。それらを通じて,各々の都市や時代における再開発に見られる特徴や共通性を浮き彫りにすることも本シンポジウムの目的としたい。

なお,今回のテーマ設定には東日本大震災とそれからの復興に対する関心が影響をおよぼしている。むろん,ここで取り上げる都市と,大地震および津波によって甚大な被害をこうむり,意図せぬ形で破壊された東北の港湾都市とは環境や状況などで大きな相違がある。しかしその復興が,復興に関わる様々な主体・担い手の錯綜する多様な思いや利害に影響され,またその調整を図りつつ進められている現状を考えるならば,時代や場所や状況を異にしてもなお,ここで取り上げる各都市の再開発と一定の共通性があるように思われる。本シンポジウムが東北の復興を考える際の一助になれば幸いである。

【報告】
・「東京市区改正事業に関する一考察―都市史的観点から―」
松山恵氏(明治大学文学部専任講師)

・「雑居ビルから見る戦後東京の都市再開発―ニュー新橋ビルを主な例に―」
初田香成氏(東京大学大学院工学系研究科建築学専攻特任助教)

・「租界都市・上海における近代的都市空間の形成―南京路を例に―」
菊池敏夫氏(神奈川大学付属高校教諭)

【コメント】
・西洋都市研究および都市行政・政策学の立場から
羽貝正美氏(東京経済大学現代法学部教授)