第5回月例研究会

日時 2007年6月22日(金) 18:30から 
報告 佐野実氏(一橋大学大学院経済学研究科経済史・地域経済専攻)
   「滬杭甬鉄道建設事業における方針転換の背景とその意義」
会場 明治大学リバティータワー20階

発表要旨
本報告は、滬杭甬鉄道建設事業を例に、光緒新政期における鉄道政策方針転換の背景とその意義について議論したものである。清朝は光緒新政期に、列強からの借款貸付要求の圧力に屈し、それまで公認していた民間独力での自弁建設を否定し国有化と借款建設に方針を改めたとされる。その最初期の例として著名なのが滬杭甬鉄道である。
本報告では、先ず滬杭甬鉄道自弁建設の経営効率性を、資材や技術等準備の不足、用地買収等施工段階での躓き、建設資金の不足等から真に非効率的であったことを述べた。続いて、清朝がこうした現状を認識した上でイギリスとの借款契約交渉に際し、かの国をドイツと競合させることで優位に立ち続けた結果、従来の鉄道借款契約よりも格段に有利な条件での契約締結に成功した点を明らかにした。
清末の借款導入・国有化政策は、単に列強の借款貸付要求に圧されて採られた方針ではなかった。可及的速やかな全国鉄道網整備を志向する清朝にとって自弁建設は非効率的であったため、これを改善すべく主体的に採られたものであった。鉄道政策転換の最初期に於いてこのような背景が在ったことを示す事例として、滬杭甬鉄道建設事業は清末鉄道史及び外交史上にも大きな歴史的意義を有すると考える。